【読書】生きることは自分になること『デミアン』著:ヘルマン・ヘッセ

私にしては珍しく、初めて海外文学に挑戦です。

あの有名なミヒャエル・エンデの『モモ』は読んだことがありますが、大人用(?)の小説はお初ということで。

なぜ読んでみようと思ったのかというと、近所の本屋さんの特集コーナーでオススメされていて手に取りました。

で、初めて聞いたタイトルでしたが表紙のイラストがかわいかったのと、内容も自分と向き合えそうな感じがしたので気になりました。

「でも積読本たくさんあるしな~」とちょっと購入は葛藤したのですが、
先日読んだ遠藤周作さんの『周作塾』の中で、

「食わず嫌いはよくない。好奇心を持っていろんな教養を身に着けることが人としての深みを持つためには大切だ」

といった感じのことを書かれていたのに感化された直後だったので
「読むならいまだ!」と思って買っちゃいました。

買う前にちょっと検索してみたんですけど、
「主人公がデミアンと出会って自己と向き合い変化していく話」
みたいな紹介がされていて、心理学とか自分と向き合うみたいなジャンルが大好物なわたしにとってはぴったりそうだなという印象が決め手でした。

作品について

この作品の冒頭のはしがきに「人間には一人一人の物語があって、それは空想ではなく現実の、ただ一度きりの、生きている人間の物語である」ということが書かれています。

この記述から、この作品がデミアンという物語を通して伝えていることは、「一人一人の命の重さ」だと受け取りました。

戦争で多くの人が命を奪われる時代に、
この「一人一人の人生の物語」が忘れ去られてしまっていたところに、
ヘルマンヘッセが当時偽名を使ってでも伝えたかった、愛に溢れた物語だと思っています。

あらすじ

主人公はエイミール・シンクレールという名の少年です。
読み始めてみて、主人公デミアンじゃないんだ、と思いましたね。

このシンクレールという少年が、ある時ほんの見栄っ張りから友達へついた嘘が大事になり、「親にバレたらどうしよう」という不安を抱えながら日々を過ごしていたところ、ラテン語教室でなにやら意味深な視線を向けてくる少年がいました。
それがデミアンです。

このデミアンの持つ視座が固定観念をぶち壊してくれます。
人間が生きるということは、自分自身になっていくということである。
デミアンという存在が道筋を教えてくれています。
主人公のシンクレールと一緒に、自分という存在を見つめ直していける物語です。

 

学びながら、物語に感動する

主人公と同様に、読んでいる私自身もデミアンの言葉に感化されていろいろと考えさせられるのがこの作品の魅力だと感じました。

しかしそれ以上に、物語そのものが想像以上に満足のいくものでした。

海外の作品ということで、日本語が少し難しいという印象で、途中途中ですんなりと物語が入ってこないなと感じたというのが正直なところでした。

ただとにかく読み進めてみると、物語のラストには涙が頬を伝っていました。

私が響いたデミアンの言葉

自分の視点でものを見る

「ぼくたちがおそわるたいていのことは、たしかにほんとで正しい。
だが、どんなことでも先生とは違った見方をすることができる。」

「しかも、そうすると、すべてのことがたいていずっとまさった意味を持つようになる。
~中略~
ぼくたちは与えられる説明ではやはりほんとに満足することができない。」

『デミアン』(新潮文庫 p44)

これは私たちが自分らしく生きるための第一歩だと感じました。

私たちは幼少期から長きにわたって学校で教育を受けてきました。

それは大人になって社会に出て様々なことを考えるうえで礎となる貴重なものですが、
「効率」を軸とした量産型の価値観であることは事実だと思います。

効率的にものを解釈し、効率的に人を評価する。

知らぬ間にそんな価値観を刷り込まれてきたからこそ、
学校で先生が教えてくれることが正解であり、
それ以外に回答があることなんて考えたこともありませんでした。

芸術の道に進む方なんかは早い段階でこのことに気づいているのではないかと思いますが、私は学歴が大事だと思っていた学生だったので、まったく気が付きませんでした。

作品の中でデミアンが教えてくれているように、
自分なりの視点をもって物事を見るというのは、
自分が生きている証であると感じます。

もっといえば、物事を自分なりに見るだけでは足りないと思っていて、
それを表現する力も同時に重要なスキルだと思っています。

わたしがこのように発信しようと思ったきっかけもこの考えからでした。

人は、他人を物理的に傷つけない限り何をしても自由だと思っています。
どうせなら、その根底にはやさしさがあることが自分にとっても他人にとっても最も幸福な価値観だと思いますが、
例えそうでなかったとしても、自分を表現するというのが生きることの醍醐味だと、
この作品を読んで改めて感じました。

さいごに

時代も国も異なる場所で書かれた作品でしたが、
いつの時代でも、どんな境遇にあっても、
「どのように生きるか」
というのは万人に共通していることです。

それはミクロな視点からマクロな視点にわたるまで、
さまざまな観点に及ぶものですが、
デミアンが語り掛けることはきっと今を生きるあなたの心にも響くものがあると思います。

静かに自己と向き合いたい方に、
ぜひ、おすすめしたい一冊です。